お疲れ様です!とーやです!
「AIに仕事を奪われる」だの「AIなんて信用ならない」だの、世間がずいぶん賑やかですね。仕事を奪ってほしい側の筆頭、私の悩みはもっと手前にありました。AIの出力が、イマイチ安定しないのです。
最近、ようやく気づきました。原因は、文脈(コンテキスト)の不足。しかもこれ、AIに限った話ではありませんでした。「言ったのに、伝わってない」「聞いたはずなのに、違うものが出てきた」。職場でもスタジオでも、この事故は毎日起きて、言った言ってないの水掛け論が始まります。人間同士の会話も、同じ理由でズレていたんです。
「コミュニケーションって難しいよね」とわかった気になっている大人は、なんと多いことでしょう。かく言う私が、その筆頭です(筆頭すぎる)。ただ、「難しいよね」で止めたらおしまいです。今日は、この「伝わらない」の正体と、会話の歩留まりを上げる2つの方向の話をしていきます。
言ったのに、伝わらない。誰も悪くないのに
他者との会話が噛み合わないとき、犯人は多くの場合「人」ではなく、文脈のズレです。
「どうして自分の言っていることは伝わらないんだろう」「あの人は私を理解してくれない」。これ、相性や互いの性格の問題はそこまで大きくありません。共有している情報の量と質の差が主な原因です。私自身、仕事やダンスの中で、文脈のズレによるトラブルを数多くおこしてきました。そんなつもりはなかったのに、相手には悪口として伝わっていたり、相手の言葉を明らかに間違っていると非難したりして、私のもとから去っていった人は何人もいます。その経験から人とコミュニケーションをとることに消極的になり、しばらく一人でいることを選んでいたぐらいです。
あなたの「常識」は、これまで生きてきた環境で染み込んだ、前提の手札です。相手には相手の手札がある。同じ日本語を喋っていても、手札が違えば同じ言葉が別の場所に着地します。「なるはや」が今日中の人と、今週中の人。「軽く合わせよう」が30分の人と、3時間の人。軽くとは。どちらも間違ってはいません。ただ、手札が違うんです。
極論を言うようで恐縮ですが、「話せばわかる」は嘘だと私は思っています。話しても、文脈が揃うまでは、わかりません。揃っていないまま交わされる会話は、会話の形をした独り言です。
これを特に痛感するのが、昨今のAIブームです。私は仕事でもダンスでも、日常的にAIに作業を頼み倒しているのですが、雑に頼むと、見事に雑なものが返ってきます。「この資料、いい感じにまとめといて」とだけ頼むと、どこにも使えない「いい感じ風」の何かが納品されます。これは当然です。目的も背景も読み手も、その資料がなぜ必要かという文脈を渡していないんですから。
ここで面白いのは、AIは知識量だけならこちらより遥かに上という点です。つまり、賢さは、齟齬を防いでくれない。相手がどれだけ優秀でも、文脈を渡さなければズレる。逆に、目的や前提といった文脈を渡すほど、返ってくるものは欲しいものに近づいていきます。会話の精度を決めているのは頭の良さではなく、文脈の受け渡しなんです。
人間相手なら、なおさらです。しかも人間はAIと違って、わかっていないのに「わかりました」と言う機能を標準搭載しています(やっかいだね)。新入社員に対して「この資料、いい感じにまとめといて」って指示を出す上司がいると思います(皆さんがそんな上司でないことを切に願います)。その新入社員がいくら高学歴だろうが、上司の望む卓越した資料は待てど暮らせど出てきません。
「常識」とは、これまで培ってきた「自分の偏見」に過ぎないのかもしれません。
あなたの文脈を、知らせる
あなたの頭の中は、相手には1ミリも見えていません。
常連の店なら「いつもの」で通じます。あれは店主側に、あなたの文脈が何十回分も蓄積されているからです。初めて入った店で「いつもの」と言うおじさんがいたら、私なら早足で距離を置きます。でも私たちは、コミュニティの中でわりとこれをやっています。頭の中で3日間転がした企画を、過程を全部すっ飛ばして結論だけポンと渡す。相手からすれば初見です。初見の相手に「いつもの」は通じません。通じるんだとしたら超能力ですよそれは。
じゃあ、何を渡せばいいのか。AIへの頼み方で鍛えられた型は、3点セットです。①目的(なんのためか)②前提(何が決まっていて、何が決まっていないか)③完成イメージ(どうなったら合格か)。この3つを先に渡すだけで、返ってくるものの精度が別物になります。
人間相手でも同じです。「今度打ち合わせしよう!」だけのメッセージと、「今度のイベントの曲を決めたい!候補は何個か持っていくから、30分だけ打ち合わせしよう!」では、返ってくる日程調整の速さも、当日の会話の濃さも、まるで違うはずです。「今度デートにいこう!」と誘うよりも、「うちの近くに美味しいベーグル屋さんができたんだけど、流石にベーグルって意識高過ぎて一人でいけないから一緒についてきて欲しいんだよね!」という誘い方のほうが、相手はYes/Noをはっきり返しやすいです(聞き方次第でデートが確定するとは言っておりませんので悪しからず)。
私自身、ダンスのレッスンでも全く同じことをしています。初めての人に向けてスクービードゥを教えるときには例え話を多用します。「手の振り方は走るときと一緒だよ〜」とか「足を下ろすときは忍者が着地したみたいに静かに落とすと足の軌道が綺麗になるよ〜」など。走る行為や忍者という存在は、誰でも知っている既存の知識のはずです。要は、文脈を持っている状態なんです。だからイメージしやすくなって、より良いスクービードゥが出力されるのです。これがもし「いい感じにスクービードゥして」だった場合の出力結果は、想像するまでもないでしょう。
「そこまでやるの面倒くさ!」って思いましたよね?気持ちはすごくわかります。でも思い出してください。雑に渡して、ズレたものが返ってきて、やり直しをお願いして、ちょっと気まずくなる。あの往復の方がよっぽど面倒です。文脈を先に渡すのは、面倒の先払いです。先に払うと、後がめちゃくちゃ安い。
相手の文脈を、知る
こちらの方が難しくて、こちらの方が効きます。
伝わらなかったとき、人は反射的に相手を犯人にします。「なんで伝わらないかなぁ」って。ですが、人の成長を止める最大のブレーキとは他責思考なんです。責任とは当事者意識のことです。会話も同じです。「相手が悪い」で思考を止めた瞬間、文脈を確かめる次の一手が消えます。試合終了です。逆に「自分の渡し方はどうだった?相手はどんな前提で聞いてた?」と両側を疑った瞬間、打つ手が生まれます。
ダンスのバトルやコンテストでも、同じ光景をよく見ます。結果が出なかったとき、「あのジャッジは分かってない」。気持ちは痛いほどわかります(私も言ったことがあります)。でも、ジャッジはエスパーではありません。あなたの踊りの文脈、つまり何を狙って、どこにこだわって、なぜそう動いたのかは、持ち時間の数十秒で受け取れた分しか判断材料にならないんです。だったら打つ手は1つ。限られた時間の中で、自分の文脈が伝わるように踊りを設計するしかない。ジャッジを恨む時間を、伝える工夫に回す。これも、他責思考をやめた瞬間に生まれる「次の一手」です。
もう一歩進むと、相手の文脈を取りに行けるようになります。この人は何を前提にしている?何を知らない?さっきのあの返事は、どの常識から出てきた言葉?
以前レッスンで「自分の踊りを言葉にしてみる回」をやったことがあります。生徒さん同士で、自分の踊り方を説明し合ってもらう回です。これがめちゃくちゃ面白くて、同じ動きの説明が、人によってまるで違う。「跳ねる感じ」と言う人と「落ちる感じ」と言う人が、同じムーブの話をしていたりする。うまい下手の話ではありませんよ。同じ動きを再現するための言葉が、人によって違うんです。どちらも本人の中では正確で、説明を聞いた後は、私の言葉選びが変わります。相手の辞書に載っている言葉で話せるようになるからです。
「相手の立場に立ちなさい」とは昔から言われますが、あれは精神論ではなく技術です。具体的には、質問です。「ちなみに、どういう形をイメージしてます?」「それって、いつまでに要ります?」「一番避けたいのはどっちですか?」この手の一言で、相手の手札がちらっと見える。エスパーになるためにスプーン曲げを練習するより遥かに楽ですよね。聞けばいいんです。無料です。
「言わなくてもわかるのが、本当の仲じゃないの?」という声もありそうですね。確かにツーカーの仲は実在します。ただあれは、文脈の受け渡しを何百回も繰り返した人たちの「結果」であって、初期装備ではありません。常連の「いつもの」と同じです。積み上げる前から要求するのは、後払いどころか踏み倒しですよ。
まとめ
改めて、本日のまとめです。
- 会話の齟齬は、だいたい性格でも頭の良さでもなく、文脈のズレで起きる
- 自分の文脈を知らせる。目的・前提・完成イメージの3点セット
- 相手の文脈を知る。「相手が悪い」で思考を止めると、次の一手が消える
あなたの常識は、私の非常識。私の常識も、あなたの非常識。だったらお互い、手札を見せ合うところから始めるしかないんですよね。明日、誰かに何かを頼むとき、目的を一言だけ添えてみてください。返ってくるものが変わります。
AIに強くなりたい人も、人との会話に悩んでいる人も、鍛える筋肉は同じだったというお話でした。
最後までご精読いただきありがとうございました!
